キャンプブームを背景に脚光を浴びているハリケーンランプ。その国内唯一のメーカーが大阪にあるWINGED WHEEL(ウイングド・ウィール)です。代表であり日本でただ一人の女性ランプ職人に、ものづくりへの想いを伺いました。

「帝ランプ」と呼ばれた高品質

ハリケーンランプはその名の通り、嵐の中でも炎が消えないと言われるほどタフなオイルランプです。戦場や航海で利用され、電気照明がなかった時代は生活必需品として愛用されていました。 とくに1924年創業の別所ランプが製造するハリケーンランプは、国内のみならず世界でも高品質で人気を博しました。別所代表の曾祖父、留吉さんが10年かけて開発したものです。 「海外製よりいいものを、という卸問屋さんからの依頼で、海外製品を解体して研究し、日本初のハリケーンランプを完成させました。職人の意地ですね」と別所代表。

帝の漢字の形に似た美しいフォルムから「帝ランプ」と呼ばれました。美しい炎を保ち続ける機能の高さを含め、トップに君臨する製品だったからでしょう。 「実際に私も作ってみて、穴の数や位置など、フォルムと炎の美しさにどれだけこだわって開発したか、初代の執念がよくわかりました」。

100年経った今も、フォルムと炎の美しさは変わりません。製造工程もほぼ当時のまま。 ブリキの1枚板の材料切りから始まり、数百種類ある金型を使ってプレスをし、専用の機械と手加工で約20個の部品を作り、組み立てていきます。 しかし、当時のままのものづくりが、12年前にハリケーンランプ作りを始めた別所代表には巨大な壁となりました。

「私が作る」 20歳の決断

電灯の普及などで、2004年に祖父が経営する別所ランプは解散となりました。そこで別所代表のお母さんが立ち上がります。 「日本に1軒のランプ屋だ、どうする」と迫る支援者の言葉に、会社再建を決意。当時、別所代表は小学6年生でした。 「私と体調不良の祖父母を抱え、大黒柱の母には選択肢がなかったと、後から聞きました」。

工場長とわずかに残った職人で翌年製造を再開し、2007年にWINGEDWHEELの新社名で再スタートを切りました。 しかし4年後、製造を担っていた職人が亡くなり、ものが作れない最大の危機に見舞われます。 技術はすべて口伝で製造工程はまったくデータ化されておらず、工程をある程度把握していたのは、高齢の工場長だけでした。

そこで20歳の別所代表が決断します。「工場長から技術を引き継ぐのは今しかない。私が習得して、私が作る」。 大学を辞めることを含め、周囲から猛反対を受けましたが、ランプ作りで生きていくと決意したのです。

頼み込んで会社に入れてもらったものの、見て盗んで、自分のものにする、現場の厳しさに打ちのめされます。 「工場長はもともと塗装工で、プレス工ではなく、自分で技術を身につけてきた人。とにかく私も工場長に張り付いて行動のすべてをノートに書きつけ、手順を真似する毎日でした。でも、そんな甘いものじゃなかったんです」。

20ある部品を作るためには、1部品で最低6工程あり、35トン、60トン、110トンのプレス機と、数百ある金型を組み合わせて作業を進めます。 ところが多くの金型は職人が使いやすいよう手作りされ、改造されたもの。専用機も同様で、修理が非常に難しい。「職人の優秀さが私の首を絞めました」と、別所代表は苦笑いします。 「新しい機械に替えたらと言われますが、1つずつ異なる金型で作った部品を組むので、一部の機械を代えて誤差が出るとバランスが狂ってしまいます。 ほぼ1点ものです。何より、一緒に闘ってきた、おじいちゃん、おばあちゃんのような機械を替える気はありません。昔の機械は強い。仲良くなると機嫌良く動いてくれます」。 現在は、1人で機械を操作しながら、工程のデータ化を進めています。

ランプは温かく、心安まるもの

キャンプブームもあり、オンラインショップの予約販売を中止するほどの人気ぶりです。「でもブームは警戒しています。それだけでは会社は残っていけないので、ファンをしっかりつかまないと」。嗜好品が生き残っていく道を追求する別所代表です。

「私にとってランプはキャンプ用品ではなく、心安まるもの、温かいものです。生活の様々な場面で使ってもらえるランプを作りたいです。 私自身、炎が好きで、お酒を飲みながらランプの炎を見ている時間がいちばん幸せです。でも平日は絶対に飲みません。プレスで事故を起こしたら、一生、後悔するので」。笑顔の奥の眼差しが鋭く光りました。

株式会社 WINGED WHEEL

DEDEGUMO KYOTO
【事業内容】
ランプの製造・販売
【本社】
大阪府八尾市北亀井町2-5-5
TEL. 072-925-6780
https://www.flamesense.com/

※ こちらの記事は2021年に公開されたものです。

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