町工場の一貫生産から生まれるオリジナルの鉄フライパンはSNSで拡散され、今や世界中で人気を集める商品に。時代の変化に柔軟に対応しながら、売れる金属製品を作り続ける藤田金属株式会社の製造現場に伺いました。

鉄の課題を技術で解消

巣ごもり需要とキャンプブームを追い風に、藤田金属の鉄フライパン人気は止まりません。素材・サイズなど1,040通りの組み合わせからオリジナル製品を提供する「フライパン物語」やアパレルメーカーとのコラボ商品、 さらにデザイン会社との共同開発で生まれた、持ち手を外せばお皿になる「フライパン ジュウ」など、独創的な商品がSNSで話題です。

人気の理由は使いやすさ。鉄フライパンは熱伝導に優れ、フッ素樹脂加工のアルミニウム製より長く使えるのはわかっていても「重い、サビやすい、コゲつきやすい」ため敬遠されがちでした。 これらのデメリットを、藤田金属は70年積み上げてきた加工技術で解消したのです。

4代目の藤田 盛一郎社長は言います。「プレス加工すれば大量生産できますが、うちは側面をヘラ絞り加工しています。通常より薄くなるので、全体の重量を2割ほど軽くできます」。

「サビやすさ、コゲつきやすさ」は、最初から油をなじませた鉄フライパンの製造で解決しました。通常の鉄フライパンはサビ止め塗装をしているため、使用前に空焼きと油ならしが必要です。 しかしIHや最近のガスコンロは空焼き途中で過熱防止の制御がかかり、塗装をはがせないという声が多く寄せられました。そこで藤田金属では、バーナーで焼いてオリーブオイルに浸し、 乾燥させるハードテンパー加工を施し、ユーザーがすぐに使える鉄フライパンを製造しています。「オープンにしている加工方法ですが、他社ではほとんどやっていませんね。うちはフットワークが軽いからかな」。

さらに良心的な価格も好評です。「自社一貫生産だから価格を抑えられます。金型製造から自社で、というのは創業者の祖父のこだわりです。祖父の金型製造技術を父が受け継ぎ、現在は弟が受け継いでいます」。家族で営む町工場の強みをフルに発揮しています。

思い込みからの脱却

しかし10年ほど前は「会社をたたむか否かの瀬戸際だった」と藤田社長は語ります。「当時の売り先は量販店やホームセンターが大半で価格設定が厳しく、売れる商品を開発するとすぐに海外メーカーに真似をされる。 ヒット商品が作れず、海外製品に押されて赤字が続いていました」。

そこで新規の販売ルート開拓を目指し、東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展。ギフトカタログやWeb媒体の新しい売り先を開拓したことで売上は回復したものの、値崩れが発生してしまいます。 値下げ合戦に違和感を感じ、新戦略としてWebでBtoC需要を取り込む「フライパン物語」を立ち上げました。

「それまでは『リアル店舗に商品を納めないといけない』という思い込みがありました。でも、もうそんな時代ではない。Webで直接買い手とつながり、商品を届けられるんだと気づき、この戦略なら価格を守れると思いました」。 ところが、製造現場から思わぬ声が上がりました。「1個ずつのカスタマイズなんて、やってられない」と。そこでロット数を確保できる法人のオリジナル商品をメインにするよう方向転換し、「フライパン物語」を軌道に乗せることができたのです。

小規模事業者で世界と闘う

フッ素加工のアルミニウム製に押され、長年廃盤にしていた鉄フライパンを復活させたのが11年前です。初年度の出荷数は4,400個でしたが、2021年は16万個以上を記録。 しかし「ブームのおかげで、この先はない数字と考えないといけない」と藤田社長は冷静です。そこで新事業の柱として「日常を楽しくする金属」のコンセプトから、デザイン性の高い園芸雑貨やインテリア雑貨の開発にも着手し、すでにSNSで話題です。 独創性の高いものづくりは、国内外の賞も受賞しています。

「売上の大半はまだBtoBですが、今後は利益率の高いBtoCを強くしたいと思っています。SNS発信で広告宣伝費もゼロですから」。

時代を読み、素早く消費者ニーズに応える独創的な製品を作り出していく、その柔軟性は見事です。「商品力が重要だと思います。中途半端な商品を作ればSNSですぐにバレますが、“ほんまもん”を作ったらお客様が自然に拡散してくれます」。

「絶対に残業しない」現場は、17人の少数精鋭です。「20名を超えたくないという僕の勝手なこだわりです。小規模事業者でどこまで世界と闘えるかを試したいんです」。藤田社長の熱い挑戦はまだまだ続きます。

藤田金属 株式会社

藤田金属 株式会社
【事業内容】
アルミニウム・スチール製家庭用品・家庭金物製造販売
【本社】
大阪府八尾市西弓削3-8
【創業】
1951年
TEL. 072-949-3221
http://www.fujita-kinzoku.jp/

※ こちらの記事は2022年に公開されたものです。

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