クラシック、ジャズ、ロック、吹奏楽まで、あらゆる音楽に欠かせない打楽器シンバル。その唯一の国産メーカーが株式会社小出製作所です。試行錯誤の末に「小出シンバル」ブランドを確立し、今や世界から注目を集める社員4名の会社を訪ねました。

ハンマリング加工、旋盤加工が決め手

紀元前3000年ごろから作られ始めたと言われる青銅を材料とするシンバル。その製造工程は独特です。銅と錫の合金である高錫青銅の素材を炉で焼き、柔らかいうちに熱間プレスで中央が盛り上がった形状に成形。 その後、何度か焼き直し、へら絞り加工で整形。そしてハンマリング加工と旋削加工で厚みなどを調整していきます。

音を決めるのは、形状と材料です。振動の長短はハンマリング加工の回数や削りで調整し、例えばハンマーの回数を増やすと振動が複雑になり、音がやわらかくジャズ向けのシンバルになります。

材料の合成方法も音の違いを生み出します。小出製作所が作る鉄、ジルコジウム入り材のシンバルは音が早く止まり、ドラムシンバルとして使いやすいのが特徴です。 逆に、錫23%入りのシンバル材は音が早く立ち上がり、長く続く特徴があるため、両手で打ち合わせる、合わせシンバルとして使いやすいと評判です。 「材質の違いで音の違いを出すシンバルメーカーは、世界でも当社だけです。こうした難しい材料を開発できる、国内の素材メーカーと協業しているからできることです」と小出社長は言います。

「本物」を作るため素材研究から着手

1947年創業の小出製作所は、へら絞りをはじめ確かな金属加工技術で、業務用洗濯機の部品や鉄道の車両部品などを製造してきました。 楽器との付き合いも長く、グループサウンズが流行した1960年代には、真鍮製シンバルを製造していたこともあります。しかし、真鍮製は製作が簡単なので単価が低く、納期が厳しかったこともあり、製造を中止しました。

「そんな昔話をある社員にしたら、趣味でドラムを叩いていた彼が『本物のシンバルを作りましょう』と言ってくれたんです」。今から約20年前のことです。

そこで最初に着手したのが素材研究でした。錫が20%ほど入った青銅だと分かったものの、国内では高錫青銅板を作るメーカーがありません。 「硬い青銅は変形しないため加工ができず、シンバル以外に使い道がないからです。サビに強いため水道や造船の部品には使われますが、基本それらは鋳造でまかないます」。 以来、3年かけて仕入先を探し、ようやく海外メーカーから入手できるようになりました。

加工も課題でした。「材料が硬すぎて、とにかく扱いにくい。一般的な金属加工の感覚から相当ズレがあります」と小出社長。しかも、ハンマリング加工は熟練の技が欠かせず、1つのシンバルを作るのに1時間半ハンマーで叩き続けなければなりません。 「叩き方がそのまま振動に影響するので、手で叩くのと同じように作れるハンマーマシンを自分たちで作りました」。

シンバルの表面に振動を伝え、厚みを調整する旋削加工も技術が不可欠です。「コツが要るので、最初は失敗ばかりでした」。溝加工の刃先には超硬工具を使い、酸化膜で覆われた硬度の高い材料はダイヤモンド工具でなければ太刀打ちできません。 「普通の銅合金はハイス工具で削れますが、高錫青銅は無理です」。

こうしてさまざまな苦難を乗り越えての「本物のシンバルづくり」は、売上の半分を占める事業にまで成長しました。 人づくりにもつながり、高校時代に吹奏楽部に所属していた若い技術者は、「本物のシンバルづくり」への情熱に共感し、他社を辞めて小出製作所に入社してくれたそうです。

一流のミュージシャンたちも愛用

小出製作所の強みは、何と言っても国産材料の多様さです。協業素材メーカーとは運命的な出会いだったと小出社長は振り返ります。 「自社でシンバルを作ろうということで、そのメーカーの経営幹部の方が突然お電話をくださったんです。材料の悩みをお伝えすると『うちでなんとかしましょう』と言ってくださった。メーカーの開発力・技術力のおかげです」。

最近は、チタンを絶妙に添加した新材料が吹奏楽の分野で売上を伸ばしています。「音質のバラつきが少ない優れた材料なので演奏技術がなくてもよく音が鳴り、ブラスバンドなど学校教育にフィットします。逆に、技術のあるプロのオーケストラは使わないんですよ」。 ニーズへの対応力は、ますます冴えているようです。

「作っている間はきれいな音が出ません。完成後数日寝かせ、不揃いだった原子が整うタイミングで音を確認しますが、その段階でも私たちにはよくわからない。 でも上手い人が叩くと、なぜこんなにいい音が出るのかと驚きます。完成後も奏者のテクニックで出る音を変えることは可能です」。 小出シンバルを愛用する有名ミュージシャンも多く、シンバル製造の本拠地アメリカでも注目され始めています。メイドインジャパンの技術力と素材力で、目指すは世界市場です。

株式会社 小出製作所

株式会社 小出製作所
【創業】
1947年
【事業内容】
金属製品の製造
【本社】
大阪市平野区加美正覚寺1-22-32
TEL. 06-6791-1824
http://koidecymbal.com/

※ こちらの記事は2021年に公開されたものです。

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