宇宙に銀河鉄道、切り絵、観覧車。これらはすべて腕時計のモチーフです。京都に工房を構えるDEDEGUMO(デデグモ)は、遊び心あふれる手作り腕時計のブランド。職人がひとつずつ組み上げていく、ものづくりの現場を取材しました。

京都の祇園に町屋作りのおしゃれな店舗を構えるデデグモ。出雲千虎代表が1992年に立ち上げた、手作り時計とアクセサリーのショップです。
奥の工房では、個性的なデデグモウォッチが日々生まれています。 もともとアクセサリーの卸をしていた出雲代表。ものづくり好きが高じてアクセサリー製作を始め、やがて時計を学ぶ学校に通い、一級時計修理技能士の資格を取得。

「ものづくりが好きで、時計好きではないのです」という出雲代表は、職人と経営者、両方の能力を発揮し、30年の歴史を刻む人気店へと育てました。 人気の理由は、デザインの楽しさと、それを支える精緻なものづくりにあります。ムーブメント(駆動装置)は信頼性の高い日本製。生活防水と腐食防止コーティングを施した上で、本体をはじめベルトやバックルも職人がひとつずつ組み上げていきます。「手作りなのでバリが出がちですが、お客様の腕に傷をつけないものづくりを徹底するなど、品質にはこだわっています」と出雲代表。

さらに、ファンの心を捉えて離さないのは斬新さです。素材は金属だけでなく、竹や木もあり、コラボ商品も多彩です。ベネズエラの著名アーティストとのコラボから生まれたキネティックアート(動く絵)の機械式時計、金箔などを生地にあしらう京都伝統工芸の金彩作家、また立体切り絵作家とのコラボも。好きなアートを手元で楽しむ、そんな付加価値も魅力で、全国にリピーターがいます。「針はすべてオリジナル。こんなに針を持っている会社は他にないと思いますよ」と笑う出雲代表です。

顕微鏡とピンセットによる手業

時計の針を動かすエンジンの役割を担うのがムーブメントです。クォーツ式と機械式に大別され、クォーツ式は電池を動力に水晶振動で動きます。一方、機械式は巻き上げたゼンマイがほどける力を利用する仕組みで、髪の毛ほどの細さのひげゼンマイと、多数の微細な歯車の組み合わせで構成されています。

デデグモの機械式時計の製作工程をざっくりと追っていきましょう。まず、本体の金属枠を曲げてろう付けし、磨きます。メッキは外注し、戻ってきたら自社製作の文字盤にムーブメントを組み合わせ、時針、分針、秒針の順に針を組み付けていきます。ここが一番の難所。微細な針を絶妙な力加減で扱わなければなりません。「専用道具もありますが、私は顕微鏡をのぞきながらピンセットを使います」という出雲代表の手の動きは、ムダがまったくありません。

針を組み付けたらムーブメントを押さえ込むハウジングをセットし、動きを確認。専用の道具で裏蓋を締め、手で刻印を入れていきます。あとは本体にベルトをかしめます。 細かい手作業を支えるのが使い慣れた道具類です。「自分で道具を作るし、既製品も必ずカスタマイズします。ピンセットは減っていくので自分で削って調整を欠かせません」。

そんな道具のひとつに超硬の工具があります。受注生産の「京だけウォッチ」という商品は全数字をハンドライティングで描いていくため、彫刻作業には硬い超硬工具が欠かせないそうです。

売れない時代の新戦略

若い世代を中心に「腕時計は売れない時代」だと出雲代表は言います。「周りでは半数以上の人がスマートウォッチ。うちのお客様も片手にスマートウォッチ、反対の手にデデグモウォッチというスタイルが多いです」。
コロナ禍でアパレル業界同様、腕時計市場も苦境が続きます。しかし、数年前から売れない空気を感じとっていた出雲代表は、拠点の京都以外に全国各地でポップアップショップを展開するなど、販売網拡大に取り組んできました。「新作はすべて、ベルトをかしめない取り外し可能なスマートウォッチ対応にし、お客様が自分で自由にベルトを付け替えられるスタイルを予定しています。どんなよいデザインも、重要なのは戦略ですね」。デデグモの巻き返しに期待が集まります。

出雲千こ 有限会社(DEDEGUMO)

DEDEGUMO KYOTO
【事業内容】
手作り時計とアクセサリーの製造・販売
【祇園店】
京都市東山区新橋通大和大路東入元吉町65
TEL. 075-561-3333
https://dedegumo.jp/

※ こちらの記事は2021年に公開されたものです。

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