握り心地の良さや美しいデザインで、国内外にファンを持つ大西製作所の万年筆。ふるさと納税の返礼品としても人気です。伝統工芸手法のろくろと卓上旋盤を駆使し、1本ずつ手作りされている東大阪の工房を訪ねました。

手がける81歳

ボディの中心がゆるやかに膨らむ万年筆はとても書きやすく、見た目にも優美です。このラインを生み出す匠が大西製作所代表の大西 慶造さん。日本では数少ない万年筆職人として、主要部品の首、胴、キャップのすべてを削り出し、手作りしています。

「メーカーが大量生産で成形する場合、「型」を使うのですが、その際、胴の中心が膨らんでいると型から抜くのが大変です。しかし、1本ずつろくろで削り出すわれわれならできます。生き残る道ですね」と語ります。

1本の万年筆を作るには、裁断・削り出し・穴あけなど約50工程あり、かつては町工場で分業されていました。それを大西さんはすべて1人で行っています。動線を工夫した工房内をてきぱきと動き作業を続ける姿は、81歳の年齢を感じさせません。

筆記用具メーカーで製造や卸、販売を経験するなど、長く筆記用具に携わってきた大西さんが工房を立ち上げたのは68歳のときです。 周囲の後押しを得て、著名な万年筆職人から機械や道具を受け継いでの創業でした。「50年以上、国産品・舶来品、多様なメーカーの筆記用具を扱ってきました。今もクリップを見ただけで、どこのメーカーの万年筆かわかります」。 そんな目利きとしての知識や経験が逸品を作り出す源泉になっています。

高精度を支える技術と自作道具

製造工程を追っていきましょう。材料は主にアセテートとアクリルで、とくに手汗をかいても滑らないアセテートは万年筆に最適です。ところが変形しやすいため、素材メーカーから供給されるのは角材のみ。 それを卓上旋盤で棒状に削り出す作業から始めます。次に材料を首、胴、キャップのパーツ毎に寸切りし、各々外径・長さを決めて形を整え、ドリルで穴あけをします。

続いては横型ろくろを使っての皮むきです。かんなをかけるように、ペダルを踏んで棒材を回転させながら刃物を当てていきます。 「旋盤に比べて扱いは難しいですが、繊細なカーブはろくろでしか作れません。どう滑らかにひくかは勘ですね」。ペダルで速度を調節しながら、リズミカルに体全体を使ってろくろをひいていきます。

次はねじ切り加工。首、胴、キャップのジョイントはすべてねじ式で、万年筆の耐久性や快適性の要となるため重要な工程です。 ろくろを駆使し、自作のタップで肉の薄い胴とキャップの内周に「めねじ」を作ると、首の外周の「おねじ」も自作のダイスで瞬く間に加工します。

0.2㎜以上の誤差は出ないという精度の高さを支えるのは、自作の道具です。「鉄を削って目盛りをつけ、ピッチが異なるタップを何本も作っています。 ダイスもそうですが、道具はほとんど手作りです」。最後に紙やすりをかければ、しっとりと手になじむ部品ができあがり、ペン先やカートリッジ、クリップなどをセットして完成です。

付加価値をつけ選ばれる1本へ

手書き文化がデジタルの波に押される中でも、万年筆の需要は「あまり落ちていない」と大西さんは言います。とはいえ創業直後は売上が伸びず、大変だったそうです。 「筆記用具通販ショップのオリジナル製品を手がけるなど販路を開拓し、アメリカ・イギリス・シンガポール向けの輸出が増えて、ようやく人心地がつきました。 日本製の良さが認められたのでしょうね。工夫して作った製品が売れたときはうれしいですし、輸出はまとまった本数が出るのでやりがいもあります」。

ドイツ製のペン先など輸入部品の仕入れ価格が高騰する中、大西さんの挑戦は続きます。例えば新材料のエボナイト。 「入手が難しくなったセルロイドのように、しっとりとした触感が魅力です。ゴム素材のため製造過程で独特のニオイがするのが難点ですが、余所にはないものづくりをしないと選んでもらえませんから」。

人気上昇中の“つけペン”にも挑戦中です。「主にマンガやイラストを描く人が使うペンですが、18種類ほどあるペン先を付け替えて使えるよう大きな内径が特徴です。 大手メーカーの廉価な製品にはない、付加価値をつけていこうと考えています」。新製品への期待が高まります。

大西製作所

【事業内容】
万年筆・ボールペンなどの製造
【本社】
大阪府東大阪市長田西4-2-29
【創業】
2010年
TEL. 06-6785-7596
https://www.pen-house.net/category/PENT_14/

※ こちらの記事は2023年に公開されたものです。

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