ステンレス鋼をはじめ精密部品の加工に圧倒的長寿命化を実現

「工具の寿命が短い」お客様の課題解決へ

 自動車や半導体製造装置、医療などの分野において構成部品が高精度化しており、精密部品の材料は耐久性・耐熱性に優れたステンレス鋼の採用が増えています。 とりわけ耐食性が高いSUS316Lなどの加工では「工具の寿命が短い」というお客様のお悩みがありました。工具コストや工具交換頻度の増加といった加工現場の課題をなんとか解決したいと考え、ステンレス鋼加工に最適な新材種の開発に着手しました。

最適組成×最新技術で新材種を開発

 まず取り組んだのは、新しいコーティングの開発です。ステンレス鋼は刃先に溶着が発生しやすく加工面がきれいに出ない問題があるため、「溶着の抑制」を最大のテーマに掲げました。 試作と検証を重ね、耐溶着層としてTiCN系組成を採用し、微小切削や低速条件下での溶着の低減を可能にしました。単体では亀裂が入りやすいため、耐チッピング層に超微粒TiAlBN系の組成を採用することで、突発的なチッピングを抑制しました。

 さらに溶着を抑えるために、当社独自技術である特殊表面処理も採用。これら耐溶着層と耐チッピング層、そして特殊表面処理の合わせ技により、徹底的に溶着を抑制するAC1135Uを開発しました。 小型・自動旋盤加工での工具コストの削減と工具交換頻度の低減に貢献するコーテッド新材種です。

 加えて、当社の最新トレンドである高密着技術も採用しています。母材とコーティングの密着力を高め、安定性を高めます。刃先の溶着が着脱し、加工面がむしれるといった問題も解決。加工面の品位を維持し、工具の長寿命化に効果を発揮します。

寸法変動と面粗さ悪化の原因を見つけ出す

 今回の開発では、お客様が工具寿命判断において意識される、加工面粗さや寸法変動にこれまで以上に重きを置いて評価しました。加えて面粗さのRa、Rzという数値としては現れない面光沢という見た目品質を定量的に評価する新しい試みにも取り組みました。

 最も苦労したのは、寸法変動と面粗さが悪化する原因を特定することでした。何度も刃先損傷を観察する中で、面粗さの悪化は前切刃境界部と切刃稜線の突発的なチッピングによるものであり、寸法変動は工具の摩耗進行によって引き起こされていることがわかりました。 それに対して、耐摩耗性が高く、高硬度なコーティングや耐熱性の高いコーティングを適用して評価を進めましたが、摩耗進行を抑制することができませんでした。 そこで、刃先断面から詳細に損傷状態を観察したところ、加工中の切削負荷によるコーティング内部の亀裂と、その後の溶着の脱着が、チッピングと摩耗進行を引き起こしていることを突き止めました。これにより、「溶着の抑制」を材種開発の方針に定めることとしました。

 このようなトライ&エラーに加えて、約1年という短期間でAC1135Uを開発できたのは、試作品の段階から迅速にテストに着手してくださるなど、お客様の多大なご協力があったからです。結果も好評で、お客様の期待値の高さを実感しました。

 また開発を加速させたのは、住友電工の豊富な知見でした。例えば、耐溶着層TiCN系組成は計算科学により有用性がわかっていたため、評価の時間短縮ができました。

半導体装置部品加工で工具寿命12.5倍達成

 AC1135U は2025年11月の発売直後から高い評価をいただいています。マイクロカット株式会社様では、工具寿命は概ね3~5倍で最大12.5倍という驚異的な数字を達成。他にも、自動車部品、飲料、医療、電気機器部品など幅広い分野で工具寿命2倍以上を達成しています。 ステンレス鋼はもちろん、鋼や銅など様々な被削材で安定して加工できると好評です。

 さらに最適なチップブレーカを選んでいただくことで、お客様が求めるパフォーマンスを発揮できます。第一推奨はSI型、さらに切れ味が欲しい場合はSL型など、材種の良さとの掛け合わせで、形状にもアプローチしていただけます。

 今後はお客様のご要望にお応えし、多様なワークに対応できるようAC1135Uの型番と、同材種でのラインアップも増やしていく予定ですので、どうぞご期待ください。

※ こちらの記事は2026年に公開されたものです。

今回ご紹介した製品の詳細は下記よりご覧いただけます。

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