トップランナー川崎重工に聞く、
強いものづくり
川崎重工業株式会社
今後20年間の航空旅客需要は年平均成長率3.6%と見込まれるなど※1、長期的な成長が期待される航空機市場。この市場をけん引する世界有数のメーカー、川崎重工業株式会社のものづくりの現場を取材しました。
※1:一般社団法人 日本航空機開発協会「民間航空機に関する市場予測 2025-2044」より
航空機・宇宙分野のリーディングカンパニー
川崎重工業(以下、川崎重工)は1918年に航空機製造事業を立ち上げて以来、機体メーカー・航空エンジンメーカーとして幅広い事業を展開してきました。同事業を担う航空宇宙システムカンパニーのエンジン生産技術部 部長 平川 岳生氏にご紹介いただきました。
「機体分野では、防衛省で運用されている P-1固定翼哨戒機やC-2輸送機、ボーイング787型旅客機の前部胴体などを生産しています。ヘリコプター分野ではベストセラー機であるBK117などを手がけています。 エンジン分野では旅客機用ターボファン式、ヘリコプター用ターボシャフト式のエンジンやトランスミッション、宇宙分野ではH3ロケットのフェアリング*なども生産しています」。
*フェアリング:ロケットが大気中を飛行する際の風圧や、空気との摩擦熱からロケット先端に搭載された衛星などを守るためのカバー
世界の航空機・宇宙分野のリーディングカンパニーであり続ける同社のエンジンとは何か。「今年創立130周年の節目を迎える長い歴史のなかで、陸海空の幅広い事業分野で培い、引き継いできた高い技術と知見だと思います」と、平川氏は語ってくださいました。
70年の実績を重ね
ロールス・ロイス社の信頼獲得
同社の高い技術と知見が生きる航空機市場は、再成長期だと言われます。「コロナ禍で一時低迷しましたが、今は急激に需要が回復しており、機体は10年先まで予約が埋まっているようです」と平川氏も言います。 さらに1機あたりの部品点数は自動車の100倍近い300万点と、市場規模は群を抜いています。このポテンシャルの高さと同時に、参入障壁の高さも際立ちます。主要プレイヤーは完成機メーカーのボーイング社やエアバス社など欧米企業が中心で、エンジンメーカーも同様です。 川崎重工は、航空機エンジンの主要メーカーと広く提携しており、その1社であるロールス・ロイス社との協力関係は70年近くにおよびます。「高度な安全性確保が大前提であり、製品には非常に高い品質が求められるため、一朝一夕にパートナーにはなれません。 当社も1959年に技術提携契約を締結して以来、長い時間の中で信頼を勝ち取ってきて今があります」。
信頼を勝ち取る川崎重工のものづくり力の基盤は何か。平川氏はまず設計と製造の高度な連携を挙げます。「航空機用エンジンは軽量化・高効率化・高信頼性化・環境性能を追及するため、設計は高度化し、部品製造の難易度も高くなっています。 設計部門の優れた能力と、高度な技術要求を実現する生産技術・製造技術の両輪が、設計・開発段階から密接に噛み合うことで現在のものづくりが可能になっています」。平川氏が率いる生産技術部門は、要求の実現と高い生産性の両立を目指して準備や調整を行います。 「航空機用エンジン部品の製造は、難削材であることに加え、薄肉形状での高精度加工が求められる極めて難易度の高い領域です。我々はこの厳しい条件をクリアすべく、加工技術を磨いてきました。 同品質の製品を安定的に生産するため、一度設定した条件などを厳密に維持する「工程凍結」が求められるなど、品質管理は徹底されています。 こうした中、産業用ロボットのパイオニアである当社の強みを生かし、人手では調整が難しい微細な差を高精度に制御できる独自の技術としてロボットを導入し、生産性向上に取り組んできました」。
さらに改善活動が活発な同社では、ムダを排除して生産効率を高める生産方式KPS( Kawasaki Production System)を駆使し、競争力の高いものづくりを行っていることをエンジン加工技術一課 課長廣川 睦氏に教えていただきました。
大型旅客機用ターボファンエンジン部品加工の現場に密着
豊富な知見を生かし難削材チタン合金を加工
実際に航空機エンジンの部品加工を行っている西神工場を訪ねました。同工場ではロールス・ロイス社の大型旅客機用ターボファンエンジン「Trentシリーズ」を中心に製造しています。
ターボファンエンジンの推力は、前方のファンが大量の空気を後方へ押し出すことで得られます。エンジン内部では、後方へ送られる空気の一部を圧縮・燃焼し、燃焼ガスでタービンを回転させて、その力でファンと圧縮機を動かしています。 旅客機用のターボファンエンジンでは、ファンのみを通過する空気の量は一般的に圧縮・燃焼させる空気の量の5~10倍程度であり、推力の大部分はファンによって生み出されます。「圧縮」プロセスの一部を担うユニットがIPC(中圧圧縮機)モジュールです。 「Trentシリーズ」の内、Trent1000とTrent7000、Trent XWBでは、川崎重工が世界で唯一IPCモジュールの設計・製造・組み立てを担っています。
今回取材したのは、ディスクと呼ばれるIPCモジュールの主要部品です。外周にブレードがついた円盤状の部品で、高速回転で空気を圧縮します。この加工プログラム作成などを担っているエンジン加工技術二課 主事 馬場 隆博氏に現場を案内していただきました。
馬場氏が担当する材料は、強度と弾力性が特徴のチタン合金です。「非常に削りにくい材料で、量産初期は問題なく立ち上がっても、数量が増えると寸法不具合など問題が発生することがあります。これらリスクを避けるため、過去から引き継がれてきた加工条件を緻密に設定して安定加工を行っています。一方で、生産効率向上のための改善活動では、材料の特性上、僅かな条件変更でも影響が出るため、一気に安定性が崩れてしまわないように、バランスを保ちながら、長年の知見をもとに少しずつ条件を上げていきます」。
設備増設ではなく新しい工具採用で増産へ
回転部品であるディスク製造には、とりわけ高い安全性が求められます。切削加工による材料の変質が生じると、回転中に亀裂が進展して部品の破損につながりかねません。 大きなリスクを想定しなければならない責任の重い部品ですから、ディスク製造はすべて工程凍結されています」と馬場氏。
この加工の主力インサートとして採用いただいているのが住友電工のEH520です。「私たちが試した条件、現場の環境、EH520の3つが最適化されて生産がうまく回っています。私が担当して以降、工具不良は起きていません」と信頼を寄せてくださっています。
そして今、新たな工具での増産対応に挑戦中です。「EH520の進化版としてAC9115Tをテスト品として採用しました。機械を増設せず、現状の設備で増産に対応できるように加工条件アップを目指しています」とエンジン加工技術二課 課長大津山 智啓氏。 AC9115Tは「チタン合金にはノンコート超硬材種」の常識を覆した新しいコーテッド超硬材種です。高能率加工での安定性や長寿命に着目して、採用を決定いただきました。
「ディスクはブレードと一体型になったブリスク化が進んでおり、今後は5軸ミリングによる翼加工が課題になります。これからも住友電工の材種開発力や提案力に期待しています」と、大津山氏は語ってくださいました。
「人命を預かる」覚悟のもと、高品質な製品を安定供給し続けることがいかに過酷であるか現場からひしひしと伝わってきます。使命感を胸に日々ものづくりに挑む皆様を支える工具メーカーとして、改めて身が引き締まる思いでした。 川崎重工が掲げるグループミッションは「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」です。同社が手掛けるエンジンを搭載した航空機が世界の空を翔ける。 航空機・宇宙産業分野のリーディングカンパニーとして、果敢に挑戦を続けていく同社のこれからに目が離せません。
川崎重工業株式会社
1896年10月
【本社所在地】
東京本社 〒105‐8315 東京都港区海岸1丁目14番5号
神戸本社 〒650-8680 神戸市中央区東川崎町1丁目1番3号 (神戸クリスタルタワー)
【連結従業員数】
41,652人(2026年3月31日現在)
https://www.khi.co.jp/
※ こちらの記事は2026年に公開されたものです。