CO₂レーザ用/ファイバレーザ用

Fθレンズ

Fθレンズとは

Fθレンズとは、スキャンレンズやガルバノレンズとも呼ばれ、ガルバノスキャナやポリゴンスキャナなどで走査されたレーザビームを、「焦点距離(Focal length)×ミラー振り角(θ)」の位置に集光するための光学レンズです。

走査角度と焦点位置の関係が線形になるよう設計されており、プリント配線基板の高速穴あけ、電子部品・樹脂部品へのマーキングや、微細加工の用途で使われます。

Fθレンズ選定に必要な主な情報

Fθレンズを選ぶ際は、以下のようなポイントを事前に整理しておくと、スムーズな選定につながります。

  • 使用するレーザの種類と波長(例:CO₂/ファイバなど)
  • 必要な加工エリアと精度(焦点距離、スキャンエリア、集光スポットサイズなど)
  • 取り付け仕様やワーキングディスタンス、外形寸法との適合性

Fθレンズの構造と素材

Fθレンズは、球面や非球面などの複数のレンズで構成され、スキャンエリア全体にわたりワーキングディスタンスを一定に保ちつつ、均一なビーム照射を実現します。

用途に応じて、2つの構造が存在します。

  • テレセントリック型:ビームを加工面に対して垂直に照射する構造で、位置による角度のズレが少なく、集光特性が良いことも多いため、精度が必要とされる精密加工に適しています。
  • 非テレセントリック型:広いスキャンエリアを重視する用途に使われ、照射角度に傾きが生じることから、加工精度を求めない分野で使われるシンプルなレンズが一般的です。

使用される素材は、CO₂レーザに適したZnSe(ジンクセレンまたはセレン化亜鉛)や、ファイバレーザに適した合成石英や光学ガラス(BK7など)があり、用途や波長に応じて選定されます。また、これらの素材に対応した高度な加工・コーティング技術が、Fθレンズの性能を左右します。


住友電工のFθレンズが選ばれる理由

お客様ニーズに最適解で応える完全カスタム設計

住友電工のFθレンズは、お客様の装置仕様や加工用途に応じて個別最適化されたカスタム設計が可能です。焦点距離、スキャンエリア、スポットサイズ、テレセントリックエラー(ビームの入射角のズレ)など、各種光学特性を光学シミュレーションで解析し、最適な仕様をご提案します。

また、仕様確定前からの設計相談にも対応しており、DOE(回折光学素子)やビーム整形光学系を含むトータルな光学ソリューションとしてご提案できます。試作1個からの特注製造にも対応しており、装置開発時の試作・検証フェーズにおいても、ご依頼に応じて高度な光学解析技術でお客様を支援可能です。

国内一貫製造が実現する高精度加工と安定供給

住友電工は、ZnSe結晶の合成から非球面加工・ARコーティング・組立・検査に至るすべてを国内で一貫内製しています。ZnSe結晶を自社合成できる国内唯一のメーカーとして、高品質なFθレンズの提供を実現しています。

精密光学加工ではSPDT(Single point Diamond Turning)による非球面加工技術を採用し、ナノオーダーの加工精度と高精度な測定を実現。ZnSeや石英などの多様な素材にも対応し、設計仕様に応じた形状を、コントロールされた公差内で高精度に加工することができます。さらに、用途に応じた素材選定から加工まで、一貫してご提案します。

さらに、高度な工程管理と内製化によって、製造プロセスのばらつきを最小限に抑え、トラブル発生時も原因究明や再現性検証を迅速に実施。装置の試作・開発段階から量産段階まで、高精度かつ安定したレンズ供給を支えています。

ナノオーダーの加工精度と高精度な測定を実現したFθレンズ ZnSe(ジンクセレン)の結晶インゴット ZnSe(ジンクセレン)合成炉

スキャンエリア全域で均一な集光性能を実現

Fθレンズは、ビームが同一平面上を走査する際、スキャンエリアの中央付近だけでなく周辺エリアでも安定した集光性能を保つことが求められます。住友電工のFθレンズは、非球面設計や波面収差補正を駆使し、真円度・スポットサイズ・ビーム強度の均一性を高水準を確保。特にスポットサイズのばらつきは、スキャンエリア全域で数%以内に収まる設計を実現しています。

さらに、テレセントリック性が求められる用途においては、光軸に対してビームを垂直に照射できるテレセントリック設計にも対応。穴径の誤差や加工の歪みを最小化します。これらの光学特性は、長年にわたる精密加工分野での経験と実績に基いたデータベースから最適化設計されており、装置全体の加工精度を高める重要な要素となっています。

国産の信頼性と豊富な業界実績

住友電工のFθレンズは、日本国内での製造・品質管理・サポート体制により、高品質と長期安定供給を実現しています。設計から製造・検査・出荷・アフターサポートまでを国内で一貫して対応しているため、万一のトラブル時も迅速な技術対応が可能です。

これまでに、半導体、電子部品、医療機器、航空宇宙といった高精度加工が求められる分野への導入実績を多数保有。レーザドリルをはじめとする微細加工用途での採用実績も豊富で、長期にわたり装置の高精度加工を支えてきました。要求水準の高い産業用途において、長期安定稼働と加工精度を両立する光学部品として、装置メーカーや加工現場から高い評価を得ています。

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お客様のご希望の用途にあわせたご案内も承ります。

用途事例

切断

ステンレス鋼板やアルミ部品の切断には、ファイバレーザやCO₂レーザが使われます。正確な集光のため、ファイバ出射後のコリメートレンズや加工ヘッドの集光レンズに住友電工の非球面レンズが採用されています。電子部品やフィルムの切断に使われる装置には、スキャンエリア全体でスポットサイズと形状が均一なFθレンズが採用されています。

溶接

ステンレス鋼板や電池タブリードの溶接には、ファイバレーザやグリーンレーザが使用されます。加工ヘッドのコリメートレンズや集光レンズに加え、ガルバノスキャナを用いる装置にはFθレンズが採用されています。住友電工では、グリーンやブルーなど各波長に対応した特注設計が可能で、波長特性に最適化したレンズを提供しています。

穴あけ

プリント基板のビルドアップ層の止め穴加工に代表される微細な穴あけ加工には、高精度な位置決めと真円度の高い穴形状が求められます。住友電工では、装置メーカー様の高度な要求仕様、装置独自の光学系に適した特注設計を行い、さまざまな焦点距離、スキャンエリアのFθレンズを提供しています。

加熱

半導体のアニーリング工程では、スキャンエリア全体で歪みのないスポット形状が求められます。住友電工では、装置ごとの光学系に応じた特注設計に対応し、各種焦点距離やスキャンエリアに適したFθレンズを提供。また、ビームシェイパ素子と組み合わせた光学設計、解析を行い、最適なソリューションを提供するケースもあります。

マーキング

電子部品や半導体など、さまざまな対象物にレーザ刻印するレーザマーカでもFθレンズが使われます。266nmの紫外線や900nm帯のレーザダイオードなど、特殊な波長の対応が必要な特注Fθレンズの設計も可能です。CO₂レーザ用には、自社製ZnSe結晶を使ったFθレンズが広く採用されています。

その他

半導体の製造装置や検査装置でも、Fθレンズが使われています。例えば、特定波長のレーザに反応する層を利用したレーザリフトオフや、散乱光を検出して異物を検査する装置などがあります。住友電工では、ビームシェイパや分岐DOE(Diffractive Optical Element:回折光学素子)を組み合わせた光学系の最適設計により、多様なアプリケーションに対応しています。

仕様例


高出力ファイバレーザ用
(波長:1030nm~1090nm、材質:合成石英)


ファイバレーザ用
(波長:1030nm~1090nm、材質:光学ガラス)


YAG 2倍波グリーンレーザ用
(波長:532nm、材質:光学ガラス or 合成石英)


YAG 3倍波UVレーザ用
(波長:355nm、材質:合成石英)


YAG 4倍波UVレーザ用
(波長:266nm、材質:合成石英)


CO2レーザ用
(波長:9.3~9.4μm、材質:ZnSe + Ge)


CO2レーザ用
(波長:10.6μm、材質:ZnSe)


※仕様は一例です。住友電工ではお客様のご要望に応じた特別設計のレンズを主に製造していますので、詳細はご相談ください。

よくある質問(FAQ)


Fθレンズはどのように選定すればよいですか?

まず、利用するレーザの波長に対応したレンズを選ぶことが必須です。次に、スポットサイズを優先するのか、加工エリアを優先するのかといったアプリケーション上の優先事項に基づいて選定するのが一般的です。当社カタログに掲載している仕様例は設計事例であり、標準在庫品以外は受注生産となります。リストにない製品についても、ご要望に応じて設計提案し、1個から製作可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

有効径に対して、入射ビーム径の推奨サイズはありますか?

当社では、有効径(Entrance Pupil Diameter:EPD)の半分に相当する1/e²径を推奨しております。1/e²径とは、ビーム強度が13.5%となる点の直径を指し、そのおよそ2倍までは十分なエネルギーがあるためです。ただし、ビームのケラレや収差によるスポット形状への影響を許容できる場合には、より大きなビーム径を入射するケースもございます。最適な条件はお客様の使用環境によって異なりますので、状況に応じてご検討ください。

特注で依頼する場合、仕様にトレードオフはありますか?

代表的なトレードオフは「加工エリア」と「焦点距離」の関係です。広いエリアを確保する場合は焦点距離が長くなり、スポットサイズも大きくなります。一方で、小さなスポットサイズを優先する場合は焦点距離が短くなり、エリアは狭くなります。つまり、焦点距離・スキャンエリア・スポットサイズは一般的にトレードオフの関係にあり、用途に応じたバランス検討が重要です。また、テレセントリックエラーを小さく抑えるにはレンズ径が大きくなり、経済性の制約も生じます。

真円度を重視する場合は、テレセントリックレンズを選べばよいのですか?

必ずしもそうとは限りません。当社では独自の収差補正設計により、非テレセントリックレンズ(テレセンエラー5度以上)であっても、像面において真円度の高いレンズを提供しています。ただし、穴あけ加工などで切断面の垂直度を重視する場合には、テレセンエラーの小さなレンズを選定いただく必要があります。

ガルバノスキャナの情報(XYミラー間隔やYミラー・レンズ間隔)が分からないのですが?

最適なFθレンズの設計には、ガルバノスキャナの正確な情報が不可欠です。Fθレンズは、光学設計時に前提としたミラー間隔などの条件どおりに使用しないと、真円度やテレセントリックエラーが悪化する恐れがあります。依頼いただく際に不明な点があれば、当社担当者までご相談ください。

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